ブクゑメモ

本読む苔の読書メモ。好きにやっちゃいましょうよ、好きに。

短編偏愛の日々その1 <グレイス・ペイリー>

MONKEY Vol.9 短篇小説のつくり方

MONKEY Vol.9 短篇小説のつくり方

短編集偏愛モード、絶賛展開中。どうしてもグレイス・ペイリーが読みたくなって買ったMONKEY vol.9がきっかけ。いや、グレイス・ペイリー再読がきっかけか。『海辺のカフカ』を最後に、翻訳を含めた村上春樹作品から距離を置いていたのだが、グレイス・ペイリーに関しては作品と村上訳の相性がいい。仕方ない。そして、久しぶりに読んだグレイス・ペイリーは、やっぱりよかった。

 

グレイス・ペイリー作品の好きなところ。まずは、語り口。グレイス・ペイリーと言えば、なじみ深いプロタゴニストこと、フェイス。フェイスの日々に起こることを、フェイスの目に映る世界を、家族や友人や彼女を取り巻く人々を、フェイスの家のダイニングテーブルで、コーヒーをふるまわれながら、フェイスから直接聴いているかのような、語り口。そして、ページ全体が、物理的にひとつのフラットなモノトーンに見える。グレイスが会話を鉤括弧でくくらないからだ。それが誰の視点であれ語りであれ、今であれ過去であれ、傷痕であれ希望であれ、なにもかもすべて、同じ。その「視点」が、いい。ただ、目はとても疲れる。文章を、書くときの約束事に従って読んでいるのだと再認識。

 

最後の瞬間のすごく大きな変化 (文春文庫)

最後の瞬間のすごく大きな変化 (文春文庫)

次に好きなのは、距離感。フェイスから見える距離のあれこれ、フェイスにとっては大小様々なあれこれだが、他人にとっては些末な出来事を語るところ。とても親密でとても個人的な、その距離感がいい。なにも起こらない、と言えばそうなのかもしれないけれど、確実になにかが動いて、流れ、そしてなにかを残したり、消えていったり。近すぎるがゆえに、フェイスに見えないことは、彼女自身の感情ですら、読み手にも見えなかったりする。だからと言って感情移入させるようにも語りかけてこないし、突き放しもしない。どうぞ、おすきなようにという、その距離感がすき。

 

もうひとつは、そこに込められたフェミニストとしてのスタンス。その是非というよりはむしろ、日々の暮らしの中で、女性がなにを課せられ、なにと向き合い、なにを愛し、なにに生きるか。特にフェイスを通して見えてくるグレイスのスタンスが、すき。

 

今回はグレイス・ペイリーのインタビューも掲載されていて、それもまたパワフルだった。そして初めて彼女の作品を手に取ったときのように、グレイス・ペイリーはわたしの短編偏愛に火をつけた。

MONKEY vol.9(2016SUMMER/FALL)/柴田元幸/責任編集 本 : オンライン書店e-hon

最後の瞬間のすごく大きな変化/グレイス・ペイリー/著 村上春樹/訳 本 : オンライン書店e-hon