ブクゑメモ

本読む苔の読書メモ。好きにやっちゃいましょうよ、好きに。

スティーヴン・ミルハウザー『夜の姉妹団』

スティーヴン・ミルハウザーは、難しい!岸本佐知子さん訳『エドウィン・マルハウス』を読んでいる最中、何度も感じた。原文も訳文も、どちらかと言えばシンプルな文体。映像的で美しく、独特のリズムがある。だけど難しいんだよ、ミルハウザー。難しさは、描写の美しさを追っているだけなのに、それで読解できていると勘違いさせられてしまうところ。

夜の姉妹団―とびきりの現代英米小説14篇

エドウィン・マルハウス』の難解さに熟成棚に戻したわたし、ここは短編から入り直してもいいのでは?Twitterで見かける『夜の姉妹団』人気に乗っかってみた。同作が別途収録されているミルハウザー短編集『ナイフ投げ師』も手元にあるのだが、今回読んだのはタイムラインの皆さんが読んでいた、柴田元幸さん編訳アンソロジー。表題作として『夜の姉妹団』が収録されている。「環境や条件の違いは、読後の印象や感想にも影響があるのでは?」と考えて、手元にあるものではなくあえてこの絶版。今回も図書館が強い味方になってくれた。

 

さて。イントロダクションの部分ですでに眉がグイッと寄る。え?これはシスターフッドがテーマなの?いや、シスターフッドの話では、ある。彼女たちは自分たちの持てる知識と行動力を発揮して、沈黙を貫く規律を徹底する秘密結社のようなものを結成した。会員からの内部告発でそれは明るみに出、周りの大人たちの大騒ぎに発展していく話なんだけど… ここですでに「ミルハウザー難しい!」が発動。メタすぎる。シスターフッド、抑圧などの感想を目にしたが、わたしが真っ先に思い浮かべたのは新大陸でのピューリタンによるクエーカー教徒迫害だった。ここでは、周りの大人たちがピューリタンであり、姉妹団がクエーカーである。絶対平和主義者であるクエーカーは、抑圧という暴力に屈するではなく、沈黙で応じる。『るつぼ』に見られるような告発もない。ただただ、自分たちの信じたやり方を貫く。これが、ひとつ。

言葉で表現することの限界、これがまたひとつ。書き手と作品、読み手。そこに生じる乖離。言葉にされることで作者の手を離れ、読者のものになってしまう作品。作品を通して語るというのは、ミルハウザーにとっては沈黙と同義と受け止めざるを得ない?

マジョリティによるマイノリティ排除、支配被支配者、搾取被搾取、女性蔑視… 次から次へと出てくる出てくる。具沢山シチューのシスターフッド包みですね。包みだけを味わうより、くずしてシチューと一緒に食べると美味しい。これが難しいと感じる理由かな。そこで満足しちゃうともったいない、でもそのままで十分美味しい。