ブクゑメモ

本読む苔の読書メモ。好きにやっちゃいましょうよ、好きに。

岸本佐知子編『変愛小説集 日本作家編』

葉桜の頃。暮らしのあたらしいリズム。起きて動いて寝て、また起きる。明日繰り返す今日。シンプルで難しいこと。

岸本佐知子さんの編訳偏愛。アンソロジーは「そう!これが読みたかった!」な短編ばかり。訳も編も、読むたびに岸本さんの引き出しの多さに驚く。ページを開いて最初の二行くらい読むと「ぎゃ!好き!」。たくさんもらって、たくさんもってかれて、読み終わるとしばらくは「なんも言えねえ」ので、この中からどれかひとつ(もしくはふたつ、もしくはみっつ)を選ぶのが難しい。ころんとしたガラスの瓶に入った色とりどりのゼリービーンズみたい。どれもキラキラして、美味しくて、どれから食べてもいい。

『変愛小説集』シリーズを読むのは、これで3冊目。今回は日本作家編。いつもの通り、どのゼリービーンズがいちばん好きか、選べない。いや、ほんとに。ひとつ(あるいはふたつ、あるいはみっつ)だけなんて。ひとつひとつが「変」で「愛」。

ちょうど多和田葉子祭開催中なので、多和田葉子「韋駄天どこまでも』はタイムリー。この作家が、計算的に、でも継ぎ目なく滑らかに、言葉を視覚的に使って物語を立ち上げるところが、とても好き。嗅覚にも味覚にも触覚にも作用して、頭も体も物語に同調する高揚がある。

川上弘美『形見』は静かな水面のよう。この作家の想像力はこちらの予想をグンと超えてくる。

最初にこの二編でぎゅっと掴まれて、そのまま。変だよー、愛かよー、愛じゃん、しかも純愛じゃーん。

吉田篤弘(『ドフトエスキーを読まない』人たちのひとり)『梯子の上から世界は何度だって生まれ変わる』は、淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びして久しくとどまることなし。よく引用するよね。『方丈記』好きか。終末が永遠。泣いちゃった一編。

深堀骨『逆毛のトメ』、わたしが自発的に読むことはない種類の作品。でも、すごい好き。『異形の愛』だね。音読した時の調子が心地良い文章。のどごし、つるつる。蕎麦か。

安藤桃子『カウンターイルミネーション』一瞬の光。世界が色褪せる。本谷有希子『藁の天』まとまりながら崩れる。村田沙耶香『トリプル』愛は愛。吉田知子『ほくろ毛』自分の一部なのにコントロールできない。木下古栗『天使たちの野合』読み手をどこへ連れていく?小池昌代『男鹿』どこまでも歩いていける、自分の足に合った靴。小野智幸『クエルボ』卵がもたらす未知。津島佑子『ニューヨーク、ニューヨーク』わたしは世界より大きい。

ほらやっぱりどれかひとつ(ふたつ、みっつ)選べない。キラキラ輝くゼリービーンズ。変な愛。愛は変。そして、愛は偏。『変愛小説集』を読めば、岸本さんの偏愛する小説たちが、わたしの偏愛する小説たちになる。