ブクゑメモ

本読む苔の読書メモ。好きにやっちゃいましょうよ、好きに。

読了メモ・2017.11

2018年上半期もそろそろって時に、まだ去年の話してますわ。期せずして、ディストピア月間になった11月。

 

末法展』図録

細見美術館

ディストピア偏愛(ゾンビアポカリプス除く)。終末とか末法に目がない。ネットストア販売前に勇み足踏んで、美術館ショップに電話して確認するほど行きたかった。図録で我慢。世界観からの組み立てがすごい。これ以上言うとアレになっちゃうので、とにかく魅了された図録、とだけ。

 

『黒と白』

トーヴェ・ヤンソン

ヤンソン祭後半の部。オブザベーショナル。ミクロにしてパンビジョン。一枚の画を語っているかのよう。『ムーミン谷』シリーズにある「コドモノセカイ」の視点。

 

『墓標都市』

キャリー・パテル

途中から「もしや?!」とイヤな予感。やっぱり!三部作の第一部やんけー!!これは次を待つのがもどかしいやつーキィ!!書物、歴史、哲学。思考と記録が禁じられたディストピア。主要キャラが心身ともに強い女性ばかりなのも、良き。

 

『侍女の物語』

マーガレット・アトウッド

ついに熟成完了!あえて「つらいよ、つらいよ」という事前情報をもらい、心の準備に時間をかけて読んだが、やっぱりつらいもんはつらい。これは、わたしの知っているつらさ。今みんなが身を置いている(押し付けられている)つらさ。ストーリー(つらさ)に引っ張られて客観性が曇るタイプの読者なので、見知ったつらさに耐性がついていたのかもしれない。思っていたより冷静に読めた(当社比)。ただ、時間を置いていなかったら本当につらさに引っ張られるだけで終わっていたと思うので、熟成を待ってよかった。

 

ワルプルギスの夜

グスタフ・マイリンク

悪夢か!次から次へと!出口のない迷宮みたいな終末感に圧倒される。下士官帽の「カワカマス色」がスッと浮かぶあたり、同時代の墺洪軍に詳しい友人の教育の賜物。マイリンクがなぜ登場人物の身なり装いを細かに語るのか。「第一ボタンがひとつ外れている」と書かれているだけで、内面描写になり得る。どうしてなり得るのか、その意味も分かる。友人のおかげ。ありがとう、友人。

 

大航海時代の日本人奴隷』

ルシオ・デ・ソウザ

日本キリシタン史偏愛。タイトルだけ見るとギョッとするが、ヨーロッパの大航海時代と日本キリシタン史を結ぶ一冊。たくさんの史料に一行しか書かれていないような事柄が調べてある。当時の日本と南蛮貿易、想像していた以上に公然と行われていた人身売買。振り返るに、異文化交流から始まったキリシタン史への興味が、宗教・思想史を経て、貿易史に向かうきっかけを作ったのは、この本だという気がする。

 

『嘘の木』

フランシス・ハーディング

深緑野分さんご推薦。わたしの中の「この人が薦める物語は読む」のひとりが深緑さん。なので、読む。読後に「え?!これ、児童文学カテゴリなの?!」と驚いた。『女性を弄ぶ博物学』案件、『科学史から消された女性たち』案件、『魔女・産婆・看護婦』案件。これを児童文学の枠にぶっ込んでおいて、それを超えてくる。なるほど、児童文学が対象とする年齢層のみなさまにこそ読んでいただきたい。

「女性は見目麗しくあるように努め、頭骨は小さく適度に賢くなく、適当な頻度でヒステリーの発作を起こし、唯々諾々と、男性の邪魔をするべからず」呪縛の沼でもがく主人公フェイスの目覚めと成長の物語。溢れんばかりのエンパワメント。でも、大人になってから読むと、「こっちを向いて!わたしを見て!」とかえりみてもらえない子供の必死な姿が、とてもつらかった。

 

『BUTTER』

柚木麻子

Naoさんからお借りして。Naoさんはわたしの中の以下同文。ほかに『本屋さんのダイアナ』しか読んだことがないが、どちらも「男女という二元性、異性との分断、同性との分断と再生」がアークなのかな。シスターフッドを、秘密や痛みの共有よりも、内へ内へと自ら削り、削って削って自分自身を掘り当てる。そうして見つけた自分を、我が半身のような同性相手と、互いにさらけ出しぶつかり傷つけあって、流れる血の中から生まれ直すものとして描く。自分を全て引き受けて初めて、シスターフッドへの切符を手にする。プロタゴニストとアンタゴニストの線引きが曖昧になり、その境界に読者をほっぽりだして振り回す、パワフルな物語だった。ただし、設定に「シンボリックなアレは分かるけど、それはちょっとありがちでないの?」ってのがいくつかあって、そこはちと残念。

 

つらいときにわたしを癒してくれるのは、つらい物語だったりするものだ。