ブクゑメモ

本読む苔の読書メモ。好きにやっちゃいましょうよ、好きに。

ウィリアム・モリス『アイスランドの旅』

紀行文偏愛ゑ。そのなかでもオールタイムベストがこのウィリアム・モリスアイスランドの旅』。ウィリアム・モリス。そう、アーツ・&クラフツの、あのウィリアム・モリス。これは、アイスランドのサーガに魅せられたモリスさんの長年の夢・アイスランドサーガ聖地詣日誌。「アッー!ここはニャールのサーガのグンナルが!!」「蛇舌の!グンラウグ!」「ひゃだッ!めんどりのソーリルの!」と聖地詣でにやたらはしゃぐモリスさん。そしてモリスさんの映像的描写が立ち上げるアイスランドの自然。実際には厳しい旅だったと思う。それを補ってあまりあるモリスさんのテンション。わかるーー!ってなるわたしのエモーショナルリアリティ。つまりですよ。端的に言うと、これはアイスランドサーガ・クレイジーファンガール、ウィリアム・モリスのクレイジーファンガール・アイスランド紀行文なのだ。

とにかく風景描写。モリスさんのパンビジョンがすごい。精緻な再現。詩的。モリスさん、ポエティック IMAX人間。

経由地のスコットランドですでにテンション割高のモリスさん。ウキウキワクワクが止まらないのに隠している。かわいい。この時点ではまだクレイジーファンガールを出しきれていないのだ。7月頭に始まり9月頭に終わる聖地詣日誌。8月11日頃にはウキウキワクワクが疲労に変わりウンザリしちゃうモリスさん。「白状すると」と加えて「ほんとは泣きそうだった」なんて心情吐露。これが紀行文のおいしさなのだ。アイスランドに魅せられる一方で、やたらシラミに怯えているモリスさん。 

行く先々、農家や牧師の家に泊めてもらったりしてる。どうやって連絡・交渉したんだろう?あとは、テント。

落し物するんだけど、それがポニーの鞍頭に留めておいた金属のコップとか川を渡るときにとりあえずポケットに突っ込んどいた上靴とかなの、かわいいモリスさん。それをわざわざ届けてくれる、通りかかった地元の人たちもかわいい。みんな、かわいい。モリスさん、後から「白状すると」ってそのときのほんとのきもちを書くのも、かわいい。

預けていた、日誌やら失くしたくないものが入っていたリュックを、預かってくれていた人が嵐の中で紛失してしまったので「殺してやる」と脅かしてしまうモリスさん。その人が3時間かけてリュックを見つけて戻ってきたら、めっちゃ謝るモリスさん。

新しく雇ったガイドが「獰猛な顔」してるからって「不潔狼」ってこっそりあだ名をつけるモリスさん。あとから、この不潔狼ほんとは穏やかでいい人だった、と付け足してる。モリスさん素直でよろしいが、「獰猛な顔してる」ってすごい言い様だな... ひどい。

「実はオレには隠れた料理の才能があった」んだってドヤるモリスさん。

苔の家じゃん!なにこれどうなってんの?と訝しむモリスさん。

憧れのギャウを息切れさせて上り、「厚着してるし、ブーツが」と言い訳したら同行の牧師さんに「それに太ってますからね」と言われて、ギャフンなモリスさん。笑った。とにかく、アイスランド各地の風景描写の美しさ、鋭い観察力と豊かな表現力、そして時々覗く素のモリスさんが、とても良き。サーガへの造詣の深さも、すごい。モリスさんが出会うひと全員、サーガに詳しいのもすごい。自分の国のことだから当たり前なんだけど。

ちなみにこのモリスさんのクレイジーファンガール熱血アイスランド紀行で、「まいはだ」という言葉を学んだ。槇肌もしくは槇皮。胎の水漏れを防ぐために、隙間に詰める樹皮のことだって。

読み終わってからアイスランド各地の画像検索して「1800年代前半に、よくこんなとこを、馬とポニーだけで!」と驚いた。気候風景だけでなく、睡眠と食事の詳細、出会った人々について外見による第一印象の鮮やかさを記録しているのは、いい紀行文、Good read。オールタイムベストです。

アイスランド大好きなクレイジーファンガールにおすすめですが残念ながら現在絶版なので、図書館などで探してみてください。

それでは、また。