ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』
「別の意味があったのだよ、どの夢にも幻にもありがちなように。それはいつでも寓意として、新たな解釈として、読み解かねば…」
「書物を読み解くように!?」
上下巻合わせて、読了までに1ヶ月半近くかかった。時代背景、人名、地名、用語などは少し馴染みのあるものだったにせよ、最も表層であるミステリの部分を追うだけで終わってしまい、この作品が示す〈アフリカノ果テ〉に、わたしはたどり着くことすらできなかったと思う。なんとなくつかみかけたような感触を感じる間もなく、すりぬける。全編を通して、覚えていたいのに忘れてしまう夢のような、そんなもどかしさがあった。