読了メモ・2017.2
毎月の記録。2月はかなり読んだ。偏愛にひた走る月だった。
Becoming Nicole: The Extraordinary Transformation of an Ordinary Family (未訳)
by Amy Ellis Nut
米国メイン州に住むトランスジェンダー・ニコールが「ニコールになるまで」を丹念に追ったノンフィクション。ニコールについては、サイエンティフィックな見地からの叙述が多く、ニコールはニコールになったのではなく、そもそもニコールだったと印象付けられる。ニコールがニコールになったのではなく、周りがニコールがニコールであることをようやく理解した、という話。ニコールがニコールのなる過程において、幻肢痛という、防ぎようのない知覚の影響を知り、身体性認知というものに興味を持った。
『触楽入門』
仲谷正史(テクタイル) 著
「身体性認知科学というものに、突然興味を持った!」と打ったら響き、友人が貸してくれた一冊。五感、特に触覚と知覚のはたらき。感知できないところで、わたしたちの判断や選択がいかに五感に直接的影響を受けているか。メルロ=ポンティへの準備も兼ねて。
『遊牧 −トナカイ牧畜民サーメの生活』
鄭仁和 著
寒冷地小説偏愛。人類学者オスカー・ルイス考案の調査方法『ラショウモン・メソッド』に倣って書いたそうだ(あとがきより)。寒冷地小説マニアとしては、摂氏マイナス60度の世界を詳細に説明するくだりが気に入った。
『火を熾す』
柴田元幸 訳
寒さや痛み。ジャック・ロンドンが感覚を文章に変換して伝える、そのやり方がわたしを惹きつける。言葉で主観を共有する力。寒冷地小説偏愛から表題作と『生の掟』そして内から外からの痛みを描いた『メキシコ人』がよかった。シンプルながらずしりとくるロンドンの文章、とても好き。
『キリシタンの文化』
五野井隆史 著
日本キリシタン史偏愛。さすがにスラスラ読めて、ちょっと達成感があった。入門書よりはもう少し踏み込んだ内容。布教における音楽の有用性についての章が興味深かった。
『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』
キャスリーン・フリン 著
村井理子 訳
タイトルに臆せず読むと、なぜこのタイトルしかなかったか、が分かる。自分ひとりでどうにかできる、が内から外からの抑圧だったりする。さらに、女性として、或いは自立した社会人として、馴染みのないこと、知る機会を逃してきた未知のものへの恐怖と偏見、重なったいくつもの呪縛が「料理」。そして、自分たちを閉じ込めていた料理そのものを通じて、ひとりひとりがそこから少しずつ、解き放たれていく。
『荒野にネコは生きぬいて』
G.D.グリフィス 著
前田三恵子 訳
息子の加入しているブッククラブ今月の本。タイトルで察したらしく、冒頭と結末だけで読んだ気になりやがったので「こんちくしょう、その間がキモなんだよ!」の気持ちを込めて、わたしも読んだ。あらすじをちょこちょこ話すことによって興味を持ったらしく、ちゃんと読んでくれたので、成功。ムーアの厳しさと人間の身勝手さに翻弄されながら、自らの生を生きようとするネコの話。
『とにかくうちに帰ります』
『浮遊霊ブラジル』
『ポトスライムの舟』
津村記久子 著
直感、観察、推察、自制。せつなさとかなしさ。共有できると思いたいけど、できないもの。想像力。居心地の悪さを、柔らかく、ユーモラスに語る。
『このあたりの人たち』
『パスタマシーンの幽霊』
川上弘美 著
居心地の悪い「ズレ」。短編集偏愛好み。
柚木麻子 著
『赤毛のアン』マッシュアップと思いきや… そうであってそれ以上。
『からすが池の魔女』
親戚を頼り、バルバドスからコネチカット植民地に渡った少女の物語。国教支持、ピューリタン、クエーカーなど、史実に基づいて語られていて、児童文学とされているけど、これは… アメリカ植民地時代偏愛なので、好きな作品。