ブクゑメモ

本読む苔の読書メモ。好きにやっちゃいましょうよ、好きに。

岸本佐知子編訳 『変愛小説集』

変愛小説集 (講談社文庫)

短編への偏愛は、いまもまだ。ここのところ、わたしの短編偏愛は、岸本佐知子さんに頼りきりだ。「変愛」というテーマも、岸本さんファンには事前期待値が上がるキーワード。ワクワクする。

 

変… というか愛情としてはかなりまっすぐでピュアなものを描いてるじゃないですか、というのが巻頭のアリ・スミス『五月』。ある日いきなり、近所の家の庭の木に恋をしてしまう人の話。読み手には一見「why?」なストーリーも、その人が恋する木を語る様、木を想いとる行動は真摯で、読んでいるとなんだか納得させられてしまう。一方の木は、大いなる沈黙の中にあり、恋するひとは祈りを捧げているかのようだ。木への恋心だけでは閉塞しそうなこの作品には、「ヒュッと抜ける瞬間」がある。それはアリ・スミスの筆の妙。それがなにか言ってしまうとおもしろくないのであえて触れない。訳者解説を読んで、原文も読みたくなった。この奇妙奇天烈な世界観の中に「ヒュッと抜ける瞬間」があるのも、岸本さんの編む短編集の特徴。

 

ほかにも、わたしが気に入った作品をいくつか。レイ・ヴクサヴィッチ『僕らが天王星に着く頃』体が足から宇宙服に変わっていく、宇宙服病という奇病にかかる人たちが増えてきた… そして「僕」のパートナーも。そのときがくるまで、続いていく日常と受け入れなければいけない病の進行。人類は次のステージに進むのかそれとも宇宙空間にゴミとして廃棄されるのか。希望なのか絶望なのか。でもそのときがきたら、そこには愛しかなかった。そのときは終わりではなく、通過点に過ぎなかった。

 

ジュリア・スラヴィン『まる呑み』こんな話、読んだことない。こういう視点から見た世界を描けるだなんて、ひとが頭の中で創るお話はほんとに最高だな!という喜び。どんな話かと言えば、女性が庭の芝刈りにきた年下の男性に恋をして、頭からまる呑みにしてしまう話。「うわあ…」な設定、でもそこで終わらないのはさすが岸本さんの選ぶ作品。ストーリーは、奇妙だけれど、不気味よりむしろせつなくて悲しい。得たと思っていたけれど、実際には得てもいず、ただ失うだけなのにそこから目を背けていた。それは誰にでも起こり得る話。

 

ジェームス・ソルター『最後の夜』 は、シンプルな文体で語られる奇妙な三角関係。あまり装飾のない語り口に、語られない多くのことが浮かんでくる。ヒュッと抜ける瞬間も巧妙に隠されていて、ここか?ここか?それとも?と何度も読めるのもまた、良き。「ページを開く前からお話は始まっていて、読み終わったあともまだ続く話」が好きで、これはまさにツボ。ただその「続く」感が、息苦しくてとても良き。

 

「愛ってなに?」を通して「変ってなに?」と問う世界。変と愛、あんまり違わない。