ブクゑメモ

本読む苔の読書メモ。好きにやっちゃいましょうよ、好きに。

岸本佐知子編訳 『変愛小説集 II』

「変」と「愛」。境い目のそのギリギリのところをついてくる短編集第二弾。テーマに沿って、「プロットはいらない、フォルムだけ」を実践するショートストーリーを集めてギュッと濃縮させる編の妙は、岸本佐知子さんの岸本佐知子さんたるところで、それが偏愛の理由のひとつでもある。ショートストーリーにこれでもかと広げられる余白は、読者が埋める、もしくは埋めない。自由。

 

特に気に入ったものを、ふたつ。

ステイシー・リクター『彼氏島』

タイトルのまま。あるガール/あたしが海難事故に遭い、生き残る。たどり着いた島にはジャングルがあり、そこには若い男性だけの集落がある。「あたし」は偶然その中のひとりと出会い、彼に導かれるままその集落へと…

ひとりの女が男たちを支配する界。現実の裏返しのようなこの逆転を、「あたし」は利用し、満喫する。だが、楽しいときは長く続かない。「あたし」はひとり、逆転の世界を離れて暮らすようになる。そして、思う。

誰か、あたしを、あたしたちを調査して、論文を書いて。

本当なら自分自身でそれをやりたいのだけれど「あたし」にはもうこの世界を客観視するすべがない。

もしかしたらそれを読めば、ここでのあたしが幸せなのかそうでないのか、わかるかも知れないから。 

二項のみで作られた価値観を信じていた今までの「あたし」が揺らぐお話。世界が不確かな手触りになって、ガールが、あたしになるお話。

 

アリソン・ベイカー『私が西部にやって来て、そこの住人になったわけ』

冬のモンタナの山中に、通り名バッファロー・ギャルを伴って、主人公ホイットニーが幻の野生種・チアリーダーを探しに行く話。同じくチアリーダーを探し求める猛者が集まるシルバー・ダラー・サルーン。猛者は全員、女性。彼女たちをチアリーダー探しに追い立てるもの。幻の野生種。幻想か真実か。

たとえチームに入らなくたってチアはできる。

かくしてホイットニーは西部に残る。シルバー・ダラーは、俗語で「1から10で言うと、上位にランクインするようなセクシーなひと、魅力的なひと」。そうなりたいのか、すでにそうあるのか。探求?わたしたちが集うのは、シルバー・ダラー・サルーン。最初から、わたしたちはみな、チアリーダーなのだ。

 

分かつものではなく、同じく等しいものである。「変」と「愛」は、あまり違わない。