読了メモ・2017.8
とにかく書き続けることが大事。今更ながら、2ヶ月前のこと、載せるゾォ!
夏バテして胃腸をやられ、あまり食べられず。外出も極力控えていたので、読書ばかりしていた8月だった。
『ジェンダー論をつかむ』
千田有紀・中西祐子・青山薫
入門者にやさしい、「つかむ」ところだらけの1冊。テーマが章に、章がユニットに分かれていて、どこから読んでもいい。読み手が身構ることの少ない構成。各章の終わりには参考文献が載っていて、「もっと知りたい」を助けてくれる。
『灯台守の話』
『オレンジだけが果実じゃない』
『さくらんぼの性は』
ジャネット・ウィンターソン
この順で読んだ。発表年の時系列ではないけど、この順で読んで良かった。最初に『灯台守の話』を読まなければ、その他の作品を読もうとしなかったはず。フィクションの中にフィクションがあって、はじまりと終わりはあるけれど、物語はそれより前に始まっていて、そのあとも続いていく。虚実入り混じって、マジックレアリズムのような、記憶のメモのような。簡単に言うと、わたしの好物のやつ。『オレンジ〜』と『さくらんぼ〜』も含め、ウィンターソンにとって個人的に重要なテーマを何度も何度も、形式を変えて語り直す。語ることで痛みを再現し、結末を迎えることでクロージャーとする。ある少女が自分を引き受けていく話。ある家族の歴史はそのまま、自分に繋がる。三作とも岸本佐知子さん訳。ええ、ええ。
『変愛小説集II』
岸本佐知子編訳
別途記事に。岸本佐知子さん編訳作品、間違いない。
『鬼殺し』(上下)
甘耀明
「これはあなた好みの作家ではないか」と薦めてくださった方が。なんで知ってるの?マジックレアリズムの良い煮込み。虚と実、子供の目線と記憶、大人の事情と思惑、こちらとあちら、支配と被支配、日本と台湾、漢人と客家人… 植民地にされた側の語りなので、読んでいてなんとも言えない申し訳なさ、腹立たしさ、罪悪感、悲しみ、痛み… その全てを包んでいるのが、甘燿明シグネチャーであるマジックレアリズム。小学生で身長180cm、汽車をも止める怪力の持主、主人公パー(漢名・劉興怕)。英雄譚から飛び出してきたような彼は、客家人の心の叫びを映しているかのようだ。甘燿明のマジックレアリズムはしかし、パーを多面体に、支配・被支配様々な角度から見える台湾の面がひとつひとつ、描く。複雑に入り組み重なり合った構成こそが、台湾の歴史。読みにくさは感じなかった。パーが全力を込めて止めようとする汽車。その汽車の走る線路がどのように、誰によって建設されたのか、流された血は誰のものだったのか。その全ての上を走る汽車。汽車とパー、マジックレアリズム。
『二壜の調味料』
『ウィスキー&ジョーキンズ』系かな、と手に取ったらやっぱりそうだった。ぜんっぜん信用できない語り手を持ってくるところ、とても好き。この語り手、ナムヌモという調味料のセールスマンことスメザーズ。口先八丁ギリギリ、というかそのもの、セールストークで一家にひと壜あれば十分のナムヌモを二壜売っちゃうような人が、ほぼ現場に行かない名探偵リンリーの手となり足となって数々の事件を解決する話。シンプルなセンテンスで何気なくふわっとぶっこんでくるけど、よく読むとすごい怖いこと言ってるぞ、はジョーキンズと似てる。ところでナムヌモって、なに?
『すべての見えない光』
わたしの中で言うところの『サラの鍵』案件。美しい。美しいんだけど、無理矢理奪われていく話は、なんにせよ、つらい。目が腫れるほど泣きながら、読んだ。うちにいるのに「おうちに帰りたい…」ってなるつらさだった。『サラの鍵」案件、それと分かってるのに読むし、「もう二度と読まない!』とつらさに震えながら、また読む。残酷さ、つらさ、繰り返してはいけない過去。史実を学び、そして「お話」として幾度も語り直されるものは、読まざるを得ない。つらいけど。
『飛ぶ教室50号・児童文学の大冒険特集』
深緑野分さんの『緑の子どもたち』目当てで。終末、絶望、荒廃。柔らかな緑がその腕に抱きしめているもの。深緑さんは、過ぎ去った時間を見つめ直し、語り直しながら、「人間は戦争より大きい」を描いてくれる。過ぎ去った時間とひとつながりの、いま。前へ進んで行く子どもたち。音、光、色。子どもたちの周りに溢れる緑を通して届く、それらの描写がとてもよかった。松田青子『一人ぼっちの子のための学校の隠れ場所ガイド』、町田康『親に似る』が印象的。その他、『わたしの一冊』とリレー創作が面白かった。
『室温』
はい、岸本佐知子さん訳。ええ、ええ。20分のタイムフレームにおいて展開する、個人的な宇宙。記憶の小さな一滴が次から次へと落ちてきて、次第に部屋を満たし、全てが溶け合って風を起こし、室温になる。「小さな主題」ってなによ?近寄ることでいくらでも大きくできる。なんとなく浮かんだイメージは、クマムシ。ベイカーさん、ごめん。
『時の旅人』
アリソン・アトリー
『トムは真夜中の庭で』や『クローディアの秘密』を薦めてくれた友人から。児童書、されど児童書。児童書とは言ったもので、本作約400ページあるんですけど。英国文学史、英国史と深く絡み合っていて、年齢に関わらず、読み応えあり。時を旅するテーマ、好き。
『短くて恐ろしいフィルの時代』
ジョージ・ソーンダーズ
はい、岸本佐知子さん訳。もう間違いないやつ。ブッカー賞受賞2ヶ月前に読んだのは、タイミング良かった。単純に、偶然。わたしの慧眼とかではない。全くない。まず手触りがアレゴリカルなので、読み解こうとしばし躍起になったものの、途中で訳者解説を読んで(よくやる)、やめた。委ねたら、めちゃめちゃ面白かった。「お脳… 戻した方がよかないですか?」は、岸本さんの訳文の中でもマイベスト10に入る。ラックの形した体から、お脳が滑り落ちちゃうんですよ、フィルさんは!比喩でなく!空想力に溢れ、立体的。視覚効果のある文章表現、ってすごくないですか?
『細川ガラシャ」
安廷苑
日本史におけるキリシタンの世紀偏愛。細川ガラシャのヒューマンストーリーでも戦国烈女伝でもない。当時の布教地(筆者の専門である、中国と日本… この二つ、同じ東アジア管区…誰も訊いてないと思うけど)における、カトリック教会の婚姻と生死に関する教理を再検討している。これは、日本キリシタン史においてとても重要なテーマなのだが圧倒的な勉強不足なので、これからも頑張る(突然の表明)。
14冊。読書のスピードが遅すぎる。暑さに苦しんだ夏だった。